★こないだ、ある女性の友人と久しぶりにメールでやり取りしたのですが、その時ふと、かつて彼女から聞いた不思議な話しのことを思い出しました。確か彼女が中学生の頃だったと聞いているので、まあ、ずいぶん以前のことになります。
当時彼女は、両親と高校生の兄との四人家族で、東京郊外の一戸建ての家に住んでいました。体験した不思議な話しと言うのは、その自宅の二階で起こった出来事です。
ある日の午後、彼女は学校から帰宅し、階段を上がって、二階の自分の部屋に行こうとしていました。彼女の部屋は奥にあり、その手前で兄の部屋を横切るのだそうです。
で、いつものように部屋の前を通ろうとしたら、扉(引き戸?)が少し開いていたので、何気なく中を見ると、学生服のワイシャツ姿のまま、腕枕で横になっている少年の姿が見えたと言います。「あっ、お兄ちゃん帰ってたんだ」と想い、「ただいま」と声をかけ、自分の部屋に入ったんだそうです。
ところがしばらくすると家の玄関を開ける音がして、どう言うわけか、さっき見たはずの兄が帰宅したのだと言うのです。それで不思議に想って、「あれ? お兄ちゃん、さっき部屋にいたよねえ?」と尋ねると、「なんだよ。いま帰って来たんだろ」と言うのだそうです。
そこで、ワイシャツ姿で腕枕をしていた少年のことを説明したのですが、なに言ってんだ?と言う顔をされるだけで、まるで相手にしてくれないのです。なので、彼女の方も「錯覚だったのかな・・」と想うしかなく、その話しはそこまで、と言うことになりました。
ところが数時間後のことでした。一本の電話が兄あてにかかって来たのです。それは、兄の親友が交通事故で亡くなったと言うことを知らせる電話でした。そしてその友の亡くなった時刻が、ちょうど彼女がワイシャツ姿の少年を見たのとほぼ同じ時刻だったと言います。
「そのシャツの白さが、今でも目に焼き付いているんですよ」と、彼女は語っていました。ただ、身体の向きのせいで顔は見えなかったと言います。
その友人はとても仲の良い兄の親友だったと言うことで、家にも頻繁に遊びに来ていたそうです。なので話しを聞いた直後は、事故にあって亡くなる瞬間、兄に別れを告げに来たのだと想いました。
が、よくよく考えてみると、だとしたら兄のいない部屋ではなく、もっと違った形があったんじゃないか、とも想えて来ました。で、次第に私は、もしかしたら兄と言うより彼女に会いたかったのかも知れない?と想うようになって行ったのです。
彼女は、今ではもうそこそこの年齢になっていますが、二十代の頃はノーメイクでもとても美しい女性でした。なので中学生くらいの頃となれば、なかなかの美少女であっただろうことは間違いないのです。
つまり友人にしてみれば、仲の良い兄と一緒に過ごせると同時に、運が良ければ美しい妹に会って話しも出来る、そんな居心地の良い場所であったはずの兄の部屋をとても懐かしく想っていたのに違いありません。
「もう、ここへ来ることも出来ないんだなあ・・」
腕枕で天井を見上げる姿からは、もはやどうする術もない無念の想いさえ感じられます。それでも、ひそかに想いを寄せた彼女には最期にチラリと姿を見せておきたかった、そんな風に想えてならないのです。
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こう言う話しは、亡くなった人には申し訳ない言い方ですが、まあ良くある体験談ですよね。しかし興味深いのは、彼女はもともと霊とか心霊現象とかをぜんぜん信じない人だったと言うことなのです。しかもそんな不思議な体験をした後でも、「霊は存在しない」「心霊現象は信じない」と言う気持ちにはまったく揺らぎが無いのです。
「心霊現象を妄信する心、霊が出ると想い込む疑心暗鬼、自己暗示が幽霊を見させるんです」
「複数の人が見たとしても、それは証拠にはなりません。集団ヒステリーなんです」
など、よく聞く有識者の解説です。しかし申し訳ないんですが、どうやら彼女には当てはまらないようですね。心霊は信じない人だし、見たのは昼間の明るい部屋だし、一人で見ているので集団?ヒステリーでも無さそうですし・・
それとこういう解釈のことですが、同じようなことを数十年前からずっと言い続けてらっしゃるので、我々にしてみると「もう、いいかげん聞き飽きたんですけど」って言うのが正直な気持ちです。
むしろ彼女のように、じつは誰もが何処かで、不可思議なモノを見たり体験しているのかも知れません。なのに「有るはずがない」という懐疑的な思い込み、強い自己暗示によって、実際には有ったことも無かったことにしてしまっている・・・
・・のかも知れませんよ。
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