★今さら、と言われそうですが、このところの日本のマンガ・アニメの世界進出は凄まじいものがありますな。
「クール・ジャパン」の筆頭ってことらしいですが、かつて、日本初のテレビアニメ「鉄腕アトム」の本放送をリアルタイムで見、自身もマンガ家になりたくてなりたくて懸命に目指していた者としては、少し複雑な想いも無いわけでは有りません。と言うのも、いま隆盛をきわめている多くの作品には、なかなか溶け込めない自分がいるからなのであります。
その大きな理由は、今時のマンガの「絵」と言うか、「キャラクター画」に馴染めないせいなのです。僕自身が絵描きの端くれで、絵に対する好みが激しいことが原因かも知れませんが、どうも、今のマンガは、確かに洗練されていてキレイなんだけど、なんか気持ち悪い・・ いわゆる生理的に拒否反応を起こしてしまうところが有るんです。
と言うのも、今の漫画には、昔の少女漫画的作風が流入していると思うのです。差別?と言われたらそれまでなんですが、子供の頃から少女漫画が苦手で、今の作品の絵柄に「少女漫画風」を感じると、どうしても受け付けなくなってしまうんです・・(申し訳ないです)。なので、ストーリー的には面白そうだと想っても、ついついバリアを張って避けてしまうことが良くあります。
それでも、ギリギリの境界線を何とかクリアして、見て良かったなと想うものも幾つか有ります。「蟲師」や「夏目友人帳」とか「秒速5センチメートル」など、とても良かったですね。「蟲師」に関しては絵も好きでしたが、あの奇抜な発想や設定が素晴らしかったし、「夏目友人帳」はアニメ「ゲゲゲの鬼太郎」が失ってしまった、妖怪に対する畏怖や不可思議が見事に描かれていました。
「秒速5センチメートル」については、キャラクターの絵は好みでは無かったのですが、まず背景画に引き込まれて、それにつられて物語にも引き込まれてしまいました。(自分がブレード隊で訪れた、幾つかの実在する駅が登場する、聖地巡礼的懐かしさも有りましたかね)
ただ、「ワンピース」なんかと比較して、もしかしたら、これらは一昔前の作風に近いから気に入ったのかな?と言う想いも無くはありません。
「ワンピース」は、ストーリーとは直接関係の無いエピソードを、延々と語り続ける場面が随所にあって、最近の作品にはそう言う傾向がとても多いのですが、僕なんかには、このわき道にそれる感じがたまらなく退屈だと感じられてしまうのです。
それに比べれば、「蟲師」や「夏目友人帳」「秒速5センチメートル」などは、正統派のプロット作りがなされていて、受け入れやすい構成になっている気がします。
特に、「秒速5センチメートル」はとても優れた出来映えのアニメでした。監督の「新海誠」・・この名前を覚えておいて次の作品を見逃さないようにしよう、そんな気持ちにさせました。が、僕のような時代遅れのオッサンが気に入ったくらいなので、果たして海外ではどうだろう?、クールジャパンとして受け入れられるのだろうか?と言う疑問は残りました。
そんなある時、アメリカのアニメ・オタク少女を取材したドキュメンタリーを見ていたら、ちょうどアニメ仲間を集めて「秒速5センチメートル」の映写会をやる、と言う場面を見ることが出来たのです。
「ヨーロッパならまだしも、アメリカ人に、あのスローテンポの悲しき叙情が通じるかな?」と想って見ていたら、予想に反し、集まった少女たちは、ホロホロと涙を流し始めたでありませんか。正直言って驚きました。たとえ国民性は違っても、思春期の少女には共感できるものが有ったのか、それとも彼女らがやはり特別なオタク仲間だったのか、それは今も謎ですが・・・
とは言え、あれもこれも、マンガやアニメの「マニア」が「オタク」と呼ばれ始めたころから、作家と読者が一丸となって、クール・ジャパンと言う名の世界征服?を成し遂げたこと、その成果であることには間違いありません。
そしてそれは、あの手塚治虫氏や石ノ森章太郎氏でさえまったく手の届かなかった、はるか高みで成しとげた素晴らしい出来事だったと想うのです。たとえば「宮崎駿」を知っている外国人でも、同じようなレベルで「手塚治虫」や「石ノ森章太郎」を知っているか?と尋ねたら、・・分からない気がします。
・・だから、今にしても想えば、僕たち手塚世代がそこまで行けなかった理由は、たぶん、マンガのグレードアップを目指すあまり、小説(文学)に近づけようと勘違いしてしまったことなのだと想います。
その結果、永島慎二作品やつげ義春作品など、現代小説に匹敵する優れた作品も生まれたのですが、しょせんマンガはマンガ、小説になることは出来ず、その大部分は、時代の移り変わりと共に何処かへ埋もれてしまう運命をたどったのだと思います。
とは言え、僕たちが成し遂げた大きな功績?も有ったと思います。それは「大人がマンガを読む」と言う、日本独特の文化を作り上げたことではないでしょうか。
当時「コミックは子供の見るもの」という強い観念を持つ海外の人々には、バカげた奇異な光景であると驚かれ、嘲笑的に扱われたそうです。で、その外人たちの反応を知った当時のマスコミや有識者たちは、いろんな形で「日本人の幼児化」として批判を繰り返したものでした。
しかしながら今となっては、その「大人が見るマンガやアニメ文化」が、「クール・ジャパン」を代表するものとして、世界中を席巻しているのは周知の事実です。あのころ批判を繰り返していた「頭の良い有識者」たちが、今ごろどれだけ苦々しい想いでこの状況を見ていることか、僕は時々痛快な気分で想い出したりすることがあります。
と言いながら、同時に、
「クール・ジャパンなんて威張ってんなよ!」
「それもこれも、大人になったオレたちが、どんなに世界中からバカにされても、マンガを読み続けたおかげなんだぞ!」
と、ついつい、当て付けがましく叫びたくなってしまうのも事実なのでありました。
◎「秒速5センチメートル」予告編
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