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年賀状のホントの意味

 ★今年もまた年賀状の用意をする季節となりました。最近はLINEだのメールだのがあるので、わざわざ紙のハガキに書いて出す、なんて面倒がる人も多いようです。かく言う僕も、友人知人からは、どちらかと言えば「あまり年賀状を出さない人間」として見られているかも知れません。

しかしですね、じつは、自分にはある信念?のようなモノがあって、そうなっているのです。「年賀状とは、遠く離れた友人どうしが、年に一度手紙を出し、互いの消息を確かめ合う」これが、年賀状の始まりなのだそうなのです。僕はこの本来の役割のために年賀状を出したいと思っているのです。

なかなか会う機会も無くなった古い友人同士が、一枚のハガキを頼りに互いの消息を確かめ合い、新しい年の健康を祈る、それが年賀状の本来の役割りなんです。

ところが現状はどうでしょう。いつでも(ひょっとしたら毎日?)顔を会わせる人ばかりが年賀状をやり取りし、遠く離れた人に対しては、「会わなくなってもう三年になるから、そろそろ出さなくてもいいかなあ」などと、フェードアウトで知らんぷり、ってのが実情ではないでしょうか。

へそ曲がりの僕はこれに反発したかったのです。現在進行中の友人知人よりも、むしろ離れて縁遠くなった人にこそ年賀状を出そう!。そんな「年賀状本来の使用法」に則って行動したかったのです。

しかしながら、これはウマく行きませんでした。親しい人からは筆不精だと思われ、縁遠くなった人からは「忘れたころに突如舞い込んだ年賀状」に戸惑ったような返信が届いたり・・。そのビックリしたようなコメントを読み、何か迷惑をかけたような心境になって、次からはつい遠慮してしまうのです。

現代社会においては、年賀状本来の姿を復活させることは困難なのだと言うことを思い知らされました。で、結果として僕は、はたから見れば「あまり年賀状を出さない人間」になってしまったのです。

もともと僕は「絵描き」の端くれなのですが、そういう芸術家気質の人間のやることは、なかなか世の中に受け入れられないモノではありますね。僕の場合「物事の原初を大事にする」と言う信念、気質がありまして、それが行動の根本になっていることが多いのです。

この間テレビで、ラグビー日本代表監督として大躍進させた「エディ・ジョーンズ氏」が、大勢のラグビー関係者の前で講義をしている場面に出くわしました。そこに出席していた一人の男が、エディ氏の指導法に対し、「日本人は調和、チームプレイを重んじる。あなたの言う個人技は日本人には合わないのではないか」との質問をしたのです。

するとエディ氏はこう答えました。「ラグビーが生まれた国は日本ではない。日本人のやり方に合わせていては世界では通用しない」と・・。「これだ!」と思いましたよ。エディ氏が言っていたのは、「ラグビーの原初の姿を見失うな」ってことなんですよね。

少し話しが逸れましたが、どんなことでも原初の姿から外れると、少しずつ存在の意味を失い、本来の形を保てなくなると言うことなのかも知れません。

年賀状の数が年々減少しているのも同じ理由なのではないでしょうか。確かに、しょせん毎日会ってる人への年末年始の挨拶にすぎない、と考えるなら、わざわざ仰々しく年賀状を書かなくても、LINEやメールの挨拶で充分な気がしますよね。

年賀状が「新しい年の特別な挨拶状」であり続けるには、やはり今一度、もともとの意味、原初の姿を再確認しなければならない、そう思うのです。

・・そんなこんなで、僕の「原初の年賀状復活作戦」は、数年間の試みを経てはみたのですが、やはりうまく行きませんでした。ですが、もし賛同してもらえる人がいたら、頻繁に会っている今ではなく、遠く離れあまり会わなくなってから、ぜひ年賀状の開始をお願いしたいものだと思います。


*ひとつ年賀状にまつわるエピソードを紹介しておきましょう。

それは、秋田県で生まれ育った母の話しです。子供時代の恩師とのやり取りでした。母が小学生だったころ(昭和14年ごろ?)、東京から若い女の先生が赴任して来たそうです。母はその先生をとても慕い、毎日のように下宿先へ遊びに行くほどだったそうですが、何年かして、その先生が千葉に転勤することになり、その後は年賀状のやり取りだけになっていたそうです。

やがて戦争が終わって10年ほどが過ぎ、結婚し上京した母は、一度だけ千葉まで会いに行ったようです。とは言え、主婦が家を空け遠出するなど中々できなかった時代、会いたい会いたいとは思いつつも、また年賀状だけの付き合いになって月日が過ぎて行くのでした。

ところがある年のこと。毎年届いていた女先生からの年賀状が突然途絶えてしまったのです。しかも母が先生宛に出した年賀状も「宛先不明」で戻って来てしまいました。

・・これは後々分かることなのですが、偶然にも互いの引っ越しが同じ時期に重なってしまったため、新住所を伝えあうことが出来ず、結果的に、そのまま行方知れずになってしまったと言うのです。

東京オリンピックが行われた1964年頃のことですから、一般家庭には電話も無い時代です。今のように郵便物を転居先へ転送するサービスも無かったであろろうと思われます。それでも母は、友人知人のツテを頼れば何とかなるだろうと思っていたようですが、予想に反し、何の手がかりもつかむことが出来ず、そのまま60年以上、年賀状が途切れてしまったままなのです。

ある時期、テレビで頻繁に「尋ね人探し」の番組が放送されたことが有りまして、母から何度か「あの番組に申し込んでくれないか」と頼まれたことが有ったのですが、「まさか冗談でしょ?」とホンキにしたことは有りませんでした。

が、母にしてみれば、そうでもしたくなるほど無念な出来事だったのかも知れません。しかしもう、どうすることも出来ず、行方どころか生きているか否かも難しい年齢となり、もはや母も諦めるしか無いと思っているようです。

そんな姿を見るにつけ、もしかしたら僕たちにも、途切れてしまった年賀状の無念を思う日が来るのかも知れない、と思うようになりました。今は、ともすれば煩わしいとさえ思う年賀状ですが、もしかするとその一枚に、何かで救われる日が来るかも知れないと思ってしまうのです。

今、僕にも数人の、遠く離れてしまった友人からの年賀状が届き続けています。言わば「原初の姿」を維持している貴重な年賀状であるわけです。とりあえず、この数人とのやり取りがいつまで続けられるのか、密かに行く末を見届けてみたいものだと思っています。





 

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