★この前「アメトーク」と言う番組で、「僕たちキャプテン翼芸人です!」ってのをやってまして、ついつい見てしまいました。そのとき面白かったのは、この漫画は世界中で翻訳され、有名なサッカー選手も子供のころから読んでいて、かなり影響を受けているらしいと言う話しでした。
子供って、こう言う風に、漫画とか映画とかに影響を受け、将来の目的を決めてしまうことがけっこう有るんですよね。頭の堅くなった親たちは、「そんなクダラナイことで自分の進路を決めていいのか!」って嘆きそうですが、しかしたとえば、いま50代前後の科学者で「鉄腕アトム」の影響を受けていない人はまずいないそうですよ。それくらい「子供の夢」と「物語」とは、密接に連動しているものなのです。
それは野球も同じだと思います。イチロー選手がメジャーに行ったばかりのころ、セーフコ・フィールドに立ち、「ここが、マイ、フィールドオブドリームスだ!」と、感慨深げに語る姿が有りました。彼もまた、映画「フィールドオブドリームス」を見ていて、少なからず影響を受けたからこそ出た言葉なのでしょう。
あの映画を観た人の多くは、ラストシーンの印象から「親と子の絆の映画」だと思っていますが、実際には「途方もない夢を実現させる」と言うのがテーマの作品でした(後に原作者WPキンセラ氏も語ってます)。だからイチロー選手があの言葉を、新しい夢に向かってセーフコ・フィールドで発したと言うのは、きわめて正しい使い方だったと言えるのです。
あの映画は1989年の日本公開なので、鈴木一朗少年は高校生だったでしょうか。「絶対にアメリカでプロの野球選手になってやる!」暗い映画館で、そんな「途方も無い夢」を見ていたのかも知れません。
あの映画に限らず、考えてみれば、1980年代から'90年代にかけてのキーワードは、「夢」だったような気がするのです。スポーツ選手だけでなく芸能人なんかでも、インタビューを受けるたびに「あきらめなければ、夢はかなう」と言うような発言を多用していた、そんな記憶があります。
ドラマでも「夢」をテーマにした傑作がたくさん放映されました。私が好きなものでは下記のようなドラマがあります。
◎「ライスカレー」
倉本聰作。二人の若者が、日本の安っぽいライスカレーをカナダで流行らせると言う夢を追いかけ、夢とは?、夢を実現させるとはどう言うことを問いながら、珍道中を繰り広げる物語。
◎「面影橋・夢いちりん」
市川森一作。(ギャラクシー月間賞受賞)。エリートとして出世した四人の男が、学生時代行きつけだった喫茶店を舞台に、ある殺人事件をきっかけにして、純朴だった学生時代のそれぞれの夢を思い起こす話し。
◎「夢に見た日々」
山田太一作。それぞれに崩壊した家族や人間関係の傷を背負った人々が、落ちぶれた隅田川沿いのレストランに集まり、店の再建を目指す物語。
◎「私が愛したウルトラセブン」
市川森一作。(放送文化基金賞受賞・第19回ドラマ番組部門奨励賞受賞)。ウルトラセブンという夢作りの舞台裏を描いたドラマ。ちょっとした流行語になった『夢見る力』とは、このドラマのサブタイトルです。
ところが、90年代の後半になり、「夜空のムコウ」という歌が大ヒットしました。その歌詞には・・
「あのころの未来に僕らは立っているのかなぁ
すべてが思うほどうまくはいかないみたいだ」
・・と、夢に向かって頑張ってはみたけれど、振り返って見れば、いま自分が立っているところは、あのころ思い描いた場所では無いような気がする、と言う、少々沈んだ空気が世の中を漂い始めるのです。
「あのころの未来に僕らは立っているのかなぁ
すべてが思うほどうまくはいかないみたいだ」
・・と、夢に向かって頑張ってはみたけれど、振り返って見れば、いま自分が立っているところは、あのころ思い描いた場所では無いような気がする、と言う、少々沈んだ空気が世の中を漂い始めるのです。
そこにはやがて迎えようとする「21世紀」と言う新時代が、子供のころ想像したSFのような、華やかな未来世界では無さそうだ、という失望感も込められていたのかも知れません。
確かにノストラダムスの大予言?も起こらなかったし、「2001年宇宙の旅」のような壮大な未知の現象も起きませんでした。そんな、やや暗い時代にあって、野茂投手やイチロー選手、新庄選手などのメジャー移籍が明るい話題としてニュースになりました。
確かにノストラダムスの大予言?も起こらなかったし、「2001年宇宙の旅」のような壮大な未知の現象も起きませんでした。そんな、やや暗い時代にあって、野茂投手やイチロー選手、新庄選手などのメジャー移籍が明るい話題としてニュースになりました。
そしてあの、イチロー選手の「ここが、マイ、フィールド・オブ・ドリームスだ!」という声が聞こえて来たのです。映画が公開されてからすでに10年。誰もが忘れかけていたタイトルでした。そしてその声の響きは、「まだ夢は終わったわけじゃない」そんな風にも聞こえて来ました。
それからと言うもの、イチロー選手の大活躍が始まるわけですが、その姿に魅せられ、熱心に観戦する男がいました。フィールド・オブ・ドリームスの原作を書いた作家「WP・キンセラ氏」です。
彼は偶然にもアイオワからシアトルに移り住んでいて、イチロー選手のプレーを目の当たりにし、そして「ここが、マイ、フィールド・オブ・ドリームスだ!」という言葉をも聞くことになったのです。
彼は偶然にもアイオワからシアトルに移り住んでいて、イチロー選手のプレーを目の当たりにし、そして「ここが、マイ、フィールド・オブ・ドリームスだ!」という言葉をも聞くことになったのです。
それは彼にとって、ちょっとした衝撃だったのかも知れません。遠い国からやって来た名も知らぬ若者が、自分が育て上げた作品のタイトルを口にし、驚くべきプレーを連発するようになるんですから。その証拠に、やがてキンセラ氏は「マイ・フィールド・オブ・ドリームス:イチローとアメリカの物語」と言う、イチロー賛美の著書を発表することになるのです。
そしてもう一人、「ぜひイチローのプレーを生で見てみたい」と、球場を訪れた人物がいました。何とそれは、フィールド・オブ・ドリームスに主演した「ケビン・コスナー氏」でした。
そのニュース映像を見て、私は(勝手な思い込みではありますが)三人の奇妙な符合に、軽い戦慄さえ覚えたのです。かつて映画「フィールドオブドリームス」で、鈴木一朗少年を感動させたであろう二人が、今度はイチローのプレーに驚愕して球場を訪れる‥‥、それは、あまりに出来すぎた物語のように思えました。
「If you build it, he will come.(それを作れば彼はやって来る)」
WP・キンセラが物語を書き、ケビン・コスナーが演じ上げた「夢の球場」に姿を現したのは、俊足で強肩、あきれるほどヒットを打つ、まるでシューレス・ジョーのような外野手「イチロー」だった・・、ついつい、そんな妄想にふけってしまったのであります。
類い稀なヒーローに感動して作家は物語を作る。その物語に夢を見た子供たちが、やがて未来のヒーローとして育って行く・・ そうやって時代は進んで行くのかも知れません。
そんなイチロー選手も今年で10年目。彼がメジャー・リーグに思い描いた夢は実現したのでしょうか。もちろんやるからには「ワールドシリーズ制覇」が目標だろうし、そう言う意味では、まだ夢の途中なんでしょうが、そのワリには、なぜか優勝を狙えるチームに移籍しないなど、疑問も残ります。
ただ、2009年に200安打の記録を達成した時の、「小さいことを積み重ねるのが、とんでもないところへ行くただひとつの道だと思っています」との言葉に、ヒントが隠されている言えば、言えるのかも知れません。
ただ、2009年に200安打の記録を達成した時の、「小さいことを積み重ねるのが、とんでもないところへ行くただひとつの道だと思っています」との言葉に、ヒントが隠されている言えば、言えるのかも知れません。
もう一つ「WBC」という降って湧いたようなイベントを通して、イチロー選手の意外な面を覗いたような気はしました。それは彼の「WBC」に対する、あまりに熱すぎるこだわりようです。やや冷めた感じの「松井選手」とは対象的で、異様なまでの意気込みに見えました。
その勢い余って第一回の「WBC」では、「今後三十年は日本に手を出させない」発言が問題になりました。これはちょうど一次リーグ(アジア予選)が始まる直前だったため、世の中的には(特に韓国では)韓国チームに対する暴言と解釈されてしまいました。
でもあの時、私にはそうは聞こえなかったんです。即座に「メジャー・リーグへ殴り込みじゃ!」という意味に取りました。なぜなら、イチロー選手はかねてから「世界一を決める大会にしか興味が無い」と語り、アメリカ代表がマイナー選手ばかりのオリンピックは拒否してましたから・・ もし韓国チームをツブすのが目的なら、オリンピックでも良かったはずです。
だから、あの発言は「アメリカ人に日本野球の素晴らしさを思い知らせてやる!」と解釈する方が正しいでしょう。その手始めが、韓国を始めとするアジアの国々だったと言うことですかね。そもそも彼は「韓国」という名は一度も発してないのですから。
私が、二度のWBCを通してイチロー選手について感じたことは、彼は、我々が思っている以上に「日本人」という自我意識が強いと言うことです。アメリカに馴染んで、アメリカ人のように振る舞ってヒーローになる、と言うより、自分が活躍することによって「日本野球、どんなもんじゃい!」って思わせたい気持ちの方が強い気がします。
反対に、アメリカに馴染みたい願望が強いのは「松井選手」の方でしょう。WBCに興味を示さず、ヤンキースでのWシリーズ制覇が優先と語った姿を見ると、イチロー選手とは、どこか違う夢の見かたをしてる気がします。しかも契約の絶対条件が、「優勝を狙えるチーム」と言うことだそうで、なるほど、物静かなナイスガイというイメージの強い彼ですが、じつは、常にステータスを求めるプライド高き選手なのかも知れません。
松井選手の夢としては、常々発言している通り「チームの優勝」が一番に来るんでしょう。それも打つだけでなく守備にもついて、自分がフルに貢献した状態でないと満足出来ない、そう言う気持ちが強いんだと思います。もちろん(残念ながら)イチロー選手のような「とんでもない記録」を狙える位置にいないことも理由にはなります。
もし二人に共通点があるとすれば、個人的に思うのは「映画フィールド・オブ・ドリームス」を観て影響を受けた、最後の世代になるかも知れないと言うところです。たぶん二人が引退するころには、「フィールド・オブ・ドリームス?、・・観たこと無いですねえ。ボクは『ROOKIES』に感動して、野球選手になろうと思ったんです」なんてプロ選手が増えていると思いますよ。
そのドラマの世界では、かつてあれほど活躍した脚本家たち、山田太一さんや市川森一さん、そして倉本聰さんたちも、あまり作品を書かなくなくなりました。作家がどんどん世代交代をしているのです。同じように野球選手にも世代交代が始まります。同年代であり共に30代後半を迎えるイチロー選手、松井選手は、ドラマで言えば、いよいよ「最終章に突入」したと言うところでしょうか。
そろそろ「夢の結末」のために急がないといけませんね。二人とも過去に「50歳までやりたい」との発言をしていますが、最も良い形でプレー出来るのは、やはりこの先5年くらいでしょう。松井選手が、煮え切らないヤンキースに見切りをつけ、早々と移籍を決意したのも、そういう気持ちの表れだと思います。
とは言え、思ったより早い、年俸半減でもOKと言う、あまりにいさぎよい決断だっただけに、私はまたまたヘンな妄想を働かせてしまいましたよ。もしかすると松井選手も、あの「不思議な声」を聞いたのではないだろうかと・・
「Heal his pain.(彼の苦痛を癒せ)」
「Go the distance!(最後までやり遂げろ!)」
彼は今年36歳、フィールドオブドリームスの主人公「レイ・キンセラ」が、不思議な声を聞き「夢のかなう場所」へと導かれて行ったのも、36歳だったんです。
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