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不思議な人々列伝

★ある時期僕は、具体的に言うと、1990年~1995年あたりにかけてですが、頻繁に不思議な人々に出会いました。何故か分りませんが、とにかくやたら会いました。

あのころはただ漠然と奇妙に想っただけでしたが、その後、世の中で、不可解な行動の人が多くなったり、動機不明の猟奇犯罪が増えて来たことを想うと、あそこが何かの分岐点と言うか予兆だったのではないか?、などと勝手に勘ぐったりしてしまうのです。・・そのいくつかを、記憶を頼りに書いてみます。

雨に濡れる人
西武線「田無駅」近くでのことです。夕方からポツポツと降り始めた雨が、夜には本降りになっていました。帰宅のため電車を降り自転車に乗りかえた僕は、少し急ぎ気味に走っていました。いくつか曲がり角を折れ、田無警察の交差点の手前に来たところで、その「おかしな男」を見かけたのです。

彼はずぶ濡れになりながら、大股に足を開き、道のど真ん中に立っていました。両腕を肩の高さまで広げ、しかし、ひじから先はぶらりと垂れ下げた状態で立っているのです(分かりますかね?)。

「どうしたんだろう?」と想った僕は、横を通り過ぎる時にまじまじと顔を覗いてみたのですが、彼は黒縁のメガネをかけ無言のままこちらには目もくれず、なぜか薄笑いを浮かべて、いつまでも雨に濡れ続けているのでした。

おかしな外国人
西武線「池袋駅」の地下でのことです。駅の改札を入り、ホームへの階段を上り始めると、上からひとりの外国人がおりて来ました。メガネをかけたスーツ姿の真面目そうな白人だったのですが、一箇所だけおかしなところが有りました。

何故かその白人は、厚いボール紙を首からヒモでぶら下げており、そこにつたない日本語で「ひみつけいさつ」と書いてあったのです。

僕は目を疑いました。そして、少しやり過ごしたあと、どうしても理由が知りたくなって数メートルほど追いけたのですが、人ごみに道を塞がれて追いつけず、そのまま彼は、平然と改札を抜け、地下街の雑踏の中へと姿を消してしまったのです。

ドアぎわの男
これもまた西武「池袋駅」でのことです。夕方6時ごろのある帰り・・ 僕は電車のドアぎわに立って発車を待っていました。ホームにはいろいろな人々が歩いています。その様子をぼんやりと眺めていたのですが、ある男の姿を見つけて我が目を疑いました。

なんとその男は、ラーメンのドンブリを持って歩いて来るのです。そして僕が立っているドアから乗り込み、反対側のドアぎわに立ったのです。持っているのは、駅前の屋台ラーメンのドンブリなのでしょうか? ちゃんと中身も入っています。

見かけはごく普通のサラリーマンなのですが、やっていることが僕には理解できません。彼は遠い目をしてドアの外を眺めながら、割り箸を手にすると、じつにうまそうにそのラーメンを食べ始めたのです。そして最後にスープをすべて飲み干すと、ポケットからティッシュを取り出し、どんぶりの中をきれいに拭き取りました。さらに電車の床に置いた黒いカバンの中にどんぶりをしまい込んでしまったのです。

やがて電車は動き出すのですが、男はそのまま、窓の外の流れる風景を黙って見つめているのでした。

寝そべる人
ある年の真夏。僕は買い物のため上野のアメ横を歩いていました。まさしくウだるような暑さの中、汗だくになって店を見て歩き、なんとか目的の物を買い揃えました。そして暑さを避けようと、喫茶店を探しながら御徒町あたりまで歩いて来た時のことです。

ふと人通りの少ない路地に折れると、なんと炎天下の歩道に老人が倒れていたのです。ビルの壁に首をもたれかけるようにして仰向けになっているのですが、身なりは半袖ワイシャツ姿でキチンとしており、ホームレスではなさそうです。

なので僕は「やばい、暑さにやられてしまったのだ!」と想い、恐る恐る「あの、どうしたんですか?大丈夫ですか?」と声をかけました。ところがその老人は、まぶしそうに薄目をあけると、あっちへ行け、と言うように手を振り、「寝てんだよ」と、うっとうしそうに言ったのです。

僕は不可解に想いながらも、仕方なく、言われるままにその場を去るしかありませんでした。あの老人は何をしていたのでしょうか? 言葉どおり昼寝をしていたのでしょうか? それとも・・、とにかく分りません。

叫ぶ少女
季節は冬。中野通りを、青梅街道側から駅方向へ歩いている時でした。夕方の薄暮の時間帯、駅が近いので人通りも多い歩道です。数メートル先を、赤いコートを着た髪の長い少女が歩いていました。それは、ごく普通の帰宅の光景かと想われました。

ところがしばらくして異変が起こりました。赤いコートの少女が、突然「ギャア!」と大声を上げてしゃがみ、うずくまってしまったのです。僕はビックリして立ち止まり、声を掛けるのも忘れていました。すると次の瞬間、彼女はスッと立ち上がり、何ごとも無かったかのように再び歩き始めたのです。もちろん周囲の人々も驚いたようで、唖然として彼女を目で追いかけています。

僕は「何だったんだろう?」と、いぶかしく想いながらも、また数メートルの間隔を空けて、後をついて行ったのです。が、しばらく行ったところで、少女はまたもや「ギャア!」と、大きな叫び声を上げてうずくまってしまいました。が、すぐに立ち上がって、また平然と歩き始めます。

そんな感じなので、周りの人々も声のかけようが有りません。けっきょく、そんなことを何度も繰り返し、彼女は人ごみの中へと姿を消してしまいました。あれが何だったのか、最後まで分かりませんでした。

孤独なラガー
暖かい春の日。僕は一眼レフカメラを持参して、横浜の根岸公園にやって来ました。咲きそろった桜の写真を撮ろうと想ったのです。

カメラを肩に下げ、広い公園内を散策していると、小さな丘を越えたところで、数人の若者がラグビーの練習をしているのを見つけました。おそろいのユニフォームを来て、何度もパスとランニングをくり返しています。

その中に独りだけヘッドギアを付け、違うユニフォームを着て走っている人がいました。その人は「つぎー、フォーメーションA!」「いいか! 気を抜くなー!」などと大きな声を上げていたので、僕は「あの人がキャプテンなのだな」と想い、その場から離れて行きました。

ひと回りしてフィルムを使い切り、「そろそろ帰ろうかな」と元来た道を引き返していると、さっきの丘の辺りで、また「気を抜くなー! 集中しろ!」と言う、同じ声が聞こえて来ました。「あれ、まだやってたんだ」と想いながら、丘を上って行ったのですが、そこで僕は、あまりに悲しい光景を見てしまったのです。

なんと、あの色違いのユニフォームの男だけが、たった独りでフォーメーションの練習を続けていたのです。つまり彼は、どう言う理由か自分が、あのラグビー・チームの仲間なのだと思い込んでしまった人、・・だったようなのです。

・・彼以外、誰もいなくなった丘の上では、夕暮れ迫る春の風に、無数の桜の花びらが、いつまでもいつまでも舞い続けているのでした。

幻のギター
電車の中、僕はドアぎわに立っていました。反対側のドアぎわには、若い男女が立って話しをしていました。男が女に話しかけます。「日曜日、何すんの? もしかしてデート?」「えー、違うよ。そんな人いないもん」。

その会話の内容から、二人は恋人同士ではなく、大学か何かの友人という推測が出来ました。どこにでもいる、ごく普通の感じの二人でした。その内、いくつか目かの駅に止まり、女の方が「じゃあまた月曜日」と言って先に降りて行ったのです。

ところが再び電車が走り始めて間もなく、残った男の様子がおかしくなりました。突然ギターを弾くマネを始めたのです。もちろん楽器をやっている人は、無意識に人前で指を動かしたりすることは有ります。ですが、その男のは、それだけでは有りませんでした。

「ビィーン! グイン、グイン!、ズンズンズンズン、ズンズンズン・・」と、大きな声でアンプの音マネをするのです。それどころか、顔をしかめ身体をくねらせ、まるでステージに立っているかのように、大げさな動きを始めます。今で言う「エアギター」ですね。

他の乗客たちは驚き、いっせいに視線を向けました。すぐ横にいた女性客は後ずさりし、今にも逃げ出しそうな体勢です。それでも男の演奏マネはおさまらず、動きはますます激しくなり、ついにはヒザを曲げながら前進、車両の真ん中あたりまで躍り出て「ズンズンズンズン、トゥイーン、ウィーン!」とやるのでした。

時間にして5分くらいだったのでしょうか? 僕はその一部始終をずっと見ていたのですが、ついに理解出来ないまま、途中の駅でその電車を降りなければなりませんでした。それにしても、僕が降りたあと、いつまで彼は幻のギターを弾き続けていたのでしょう・・

美しき狂気
豊島区の東長崎に住んでいた頃のことです。ある冬の日。僕はひと仕事を終えて、近所を散歩していました(要町駅周辺の住宅街です)。外は午前の気持ちのよい日射しが降りそそいでいます。

しばらくすると道の向こうの方から、じつに美しい女性が歩いて来ました。その後ろにはベビーカーを押す若いお母さんの姿も見えました。僕は「なんてきれいな人なんだろう」とついつい見とれていました。背が高くてプロポーションも良し、服そうのセンスもじつに良いのです。

ところが次ぎの瞬間、信じられないことが起こりました。彼女は僕の方を向いたまま、「あー、ははは!」と大きな声で笑い始めたのです。それも顔は無表情のまま、何か芝居のように不自然に笑っているのです。

「いったいどうしたんだ?」
と、想わず立ち止まって見ていると、今度はいきなり後ろを振り返り、
「ちょっと!あんた!、ついて来ないでよ!いったい何のつもり!」
と、物凄いけんまくで、後ろを歩いていた子連れのお母さんに怒鳴りつけたのです。

いきなりのその大声に、お母さんは一瞬たじろぎ、後ずさりしながら、「なに?、いったい何なの?頭おかしいんじゃない!?」と、今にも泣き出しそうな顔で、今来た道を逃げて行くのでした。それからその女性は正面を向き直し、僕には一べつもくれず、何事も無かったかのようにすれ違って行ったのです。

僕には、目の前で起こったほんの数秒間の出来事が信じられませんでした。その人があまりに美しく素敵な女性だっただけに、まったく不可解でした。そのせいでしょうか? 僕の散歩が、知らぬ間に不可思議なゾーンへと入り込んでしまったような、そんな錯覚に陥ってしまったのです。


・・以上、いくつかの「ほんとにあった不思議な人の話し」を書いてみました。当時はあまりに頻繁に出会うので、自分がおかしくなる前兆では?と言う、軽い疑心暗鬼にも襲われたもんです。

が、最近はまったくと言っていいほど会わなくなりまして(独りごとを言いながら歩く人はたまに見ますが・・)、自分にとって、あの時期はいったい何だったんだろう?と、奇妙な気持ちで思い返すこのごろなのです。




  

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