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カレー専門店「ボルツ」との出会いと別れ

★このごろ、草野球仲間とゲーム後にカレーを食べる機会が増えたのですが、色んな店に入るたび、ずいぶん美味しいカレー屋さんが増えたなあ、と思ってしまいます。

特にインド人やネパール人が調理する、「ナン」を浸して食べる本場のカレーは、かつては、都心まで出なければ有りつけませんでしたが、今では、郊外の商店街でも見かけるようになり、「こんなところでも食べられるようになったのかあ」と、感慨ひとしおです。

思い返してみれば、その昔、もう30年以上前になりますか?、当時、カレー好きなら誰もが知っていた、「ボルツ」と言う、東京で一世を風靡したカレー専門のチェーン店が有りました。ある時期、親会社が撤退したことから店舗数が激減、現在では、味を継承した店がわずかに残っているだけのようですが・・

ネット調べでは、どうやら発祥の地は渋谷だったそうで、1970年代に設立され、1980〜90年には全盛期を迎え、都心の色んな街にチェーン店が出店されたそうです。かつて流行した「辛さ◯倍カレー」の元祖のお店でもあります。

それまで有名カレーと言えば「新宿中村屋」のカレーだったでしょうか。今ではすっかりご無沙汰ですが、印象としては「すごく美味しい西欧風カレー」だった気がします。ホームページには「純インド風カレー」と記されてますが、あの時の味のままならば、スパイシーではあるが、やはり本場インド風とは違うと思います。

今や国民食とも言える「カレーライス」ですが、元々は英国から伝わったものだそうです。インドが英国の植民地だったころ、インド料理に魅了されたイギリス人が、母国でも簡単に作れるようにと、インド産の香辛料をブレンドして粉状にし、缶詰にしたのが始まりだそうです。

それが「カレー粉」として日本に伝わり、さらに小麦粉と油を混ぜて固め、「カレー・ルー」として売り出したことで爆発的に広まったらしいのです。つまり、日本人が大好きな「カレーライス」とは、イギリスを経由してきた「西欧風」であって、「インド風」では無いと言うことになります。

と言うことで、「新宿中村屋のカレー」はとても美味しいけれど、やはり西欧風の極上美味しいヤツって感じで、「インド風」とはどこか違う。「いつか本物のインドカレーを食べてみたい」と願っていた僕には、だんだんと飽き足らない味になって行ったのです。そうして、色んなカレー屋さんを食べ歩くようになり、ようやく「これは!」と見つけたのが「ボルツ」だったんです。

今まで味わったことのない独特の風味、食感でした。トロミが少なくサラリとしていて、さまざまなスパイスの風味が香ばしく、刺激的で非常に高級感がありました。そして店の紹介文に「香辛料は南インドから直に取り寄せている」と言う一文を目にした時には、「間違いない。ボルツのカレーは、本場インドの味だ」と言う、確信のようなものが湧き上がって行ったのです。

もちろん「辛さ◯倍」にも惹かれました。インドのカレーはとにかく辛い!と聞いていたので、より辛いカレーをクリアして行くたびに、少しずつ「本場の味に近づいている」そんな思い込みが有ったのです。

大学を卒業し、渋谷の会社に務めるようになってからも、さっそく東急ハンズ近くにボルツを見つけ、通うようになりました。その渋谷の会社とは、今は無き「JCGL」と言う、日本初のCG映像プロダクションだったのですが、仕事の内容上、夜遅くなったり徹夜になったりすることが多く、ボルツはランチと言うより夕食として食べることが多かったように思います。

で、そんなある晩のことでした。やはり仕事が遅くなっため、同じプロジェクトに関わっていた女性を連れ、ボルツで夕食をとることにしたのです。

店に入り、運ばれて来たカレーを食べ始めていると、ふと、二人の女性が入店するのが見えました。一人はお金持ちっぽい小太りのマダム?で、もう一人は、浅黒く目鼻立ちのクッキリとした美女でした。彼女は「サリー」と言うのでしょうか、インドの民族衣装をまとっていました。そして二人は、僕たちのひとつ離れた席に座ったのです。

そのインド美女は日本語も多少分かるのか、マダムの「ここはね、東京で一番美味しいカレー屋さんよ」と話しかけている声が聞こえました。

しかし、間もなく事件は起きるのです・・

彼女たちの前にカレーが運ばれたのですが、インド美人は、ひと口ふた口カレーを口にすると、何かが気に入らないらしく、小さく首を横に振り、手を止めてしまったのです。

それからウェイターを呼び、何やらしきりに話しかけるのです。マダムがそれを通訳すると、ウェイター君は困ったような顔をして店の奥へ行ってしまい、しばらくして今度は店長らしき男性が現れました。

インド美人は店長をじっと見据えると、マダムを介して質問攻めを始めました。聞こえた範囲では、「香辛料は何を使っているか?」とか「辛さは何でつけているのか?」と言うような内容だったようです。

他の客も思わず手を止めて注目するなか、店長さんは、それらの質問にうまく答えられない様子で、やがてしどろもどろになり、盛んに頭を下げて謝っている?ようでした。そのやり取りを見たマダムは、店長に「香辛料の使い方が気に入らないみたい。でも私は、ここの味がとっても好き」とかばっていたのですが・・

インド美人は、思うように答えを得られないことに諦めたのか、無言になって前を向きなおし、それきり二度とカレーに手をつけようとはしませんでした。

店の中は、騒動のせいで、すっかり冷え切った空気になっていました。にぎやかだった客たちの会話も途絶えがちで、僕も、何だか自分が恥をかいたような気分になって、残りのカレーを無理やり口に運び込んだような気がします。・・そしてその時、向かいの席に座っていた同僚の女性が、不機嫌そうに小声でひとこと、こう言ったのです。

「本物のインド人なんか連れて来るからだよ」

・・そうなんです。本物じゃなかったんです。本物のインド人に受け入れてもらえないボルツのカレーは、本物のインドの味じゃなかったと言うことなんです。

それからと言うもの、あまりボルツには行かなくなってしまいました。行けば、その時の気まずい雰囲気が蘇ってしまうのと、ボルツこそ本場インドの味と信じていたのが、かなり遠いモノだと分かってしまったからかも知れません。

・・そして、まさかあれが原因では無いでしょうが、あの騒動の時期を境に、少しずつボルツ人気にも翳りが見えて来たような気がするのです。


さて、ボルツから足が遠のいてしまった僕ですが、その数ヶ月後くらいだったでしょうか、ボルツに代わって、今度は「サムラート」に通い始めていました。渋谷のハンズ通りを歩いていると、とあるビルの前で、いきなりインド人っぽい男にビラを手渡されまして、見ると、そこには「インド料理サムラート」と書かれていたのです。

男に「店はどこ?」と尋ねると、ついて来いと手招きされ、ビルの奥へと案内されました。そしてエレベーターに乗るように言われ、6階(?だったと思う)まで無言のまま連れて行かれたのです。

一瞬「まさかヤバい店か?」と、不安が脳裏をよぎったのですが、着いて扉が開くと、香辛料の匂いが立ち込める、内装もインド風の、エスニック・ムード満載のちゃんとした店でした。店員はすべて浅黒い肌のインド人で、調理をしているのもインド人でした。

果たして僕は、そこで生まれて初めて「ナン」と言うものを食べることになるのです。ナンをカレーに浸して食べる・・、ナンの甘みと、カレーの辛味・酸味が絶妙でした。タンドリーチキンなるものも初めて食べました。それ以外のさまざまなエスニック惣菜類も食べました。それと食後のマサラ・チャイも・・、ミルクティーにまさかの香辛料が入っていて、カルチャーショックに打ちのめされました。

たぶん何度も通って、サムラートのメニューのほとんどを食べ尽くしたのではないでしょうか。そこまでしてようやく、僕の長年の夢?が果たされたように感じたのです。

「ここなら、本場インドの味だと言って間違いないだろう。何しろ本物のインド人が作ってるんだからな」


・・あれから二十数年、サムラートにもだんだんと行かなくなりました。今なら、わざわざ渋谷まで出向かなくても、あちこちの田舎町(郊外?)で、「本場のインド料理屋」を見つけることが出来るようになったから、そのことが大きかったと思います。

と、ようやく一安心?していたら、今年(2016)の1月に放送した、
「タモリ倶楽部・インド人がマジリスペクト!タンドール窯の父、高橋重雄」
の回で、とんでもない事実が発覚したのです。

番組に集まったインド人シェフ達が、皆そろって、「インド人は、ほとんどナンを食べない。日本に来て初めてナンを食べたインド人もいる」という驚くべき事実を、何気ない口調で話したのです。何しろ、あの物知りのタモリさんでさえ「エエーッ!?」と仰天したくらいですから、その衝撃度が分かろうと言うもんです。(詳しい内容は書き切れないので、ぜひネット検索してみてください)

もちろん僕も、テレビを見ながら驚きの声をあげましたよ。今度こそ本場のインド料理と信じていたのが、けっきょくは、日本人の味覚や好み、言うなれば「インド幻想」に合わせていた、と言うことだったわけですから・・

まあようするに、そんなに「本場の味」が食べたいんなら、日本でセコセコ・ジタバタせず、本場まで出かけて行って、じっくり味わって来いや!と言うことなんでしょうかね。



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