★本日、「イチロー日米通算3000安打達成」の瞬間を、BS中継で見ました。レンジャース戦の一打席目でした。それを記念して?以前まだブログでは無い頃に書いたゴブメッセージの1つ、「伝説の強打者」を再録することにしました。
なお、以下はイチロー選手が入団して初めてのシーズン、2001年終盤の頃の内容であり、古い記述がいくつも出て来ますので、カン違いの無いように読んください。
*検証1:1995年の1年間カナダを放浪していて、日本でのイチローの大活躍を知らずにいたN君。帰国後、オリックス時代のイチローのプレーを見て言った。「イチローのどこがそんな凄いんですか?」
*検証2:イチロー選手がポスティングシステムでの移籍を宣言したとき、清原、江藤、マルチネスと、あれほど熱心にスター選手集めをしていた巨人が、何故かまったく触手を伸ばさず、いとも簡単に見送りにしてしまったのはどうして?
*検証3:当時のマリナーズ・ピネラ監督は、入団後初のオープン戦でのイチロー選手の打撃を見て、「なかなか引っ張りのパワフルな打撃を見せてくれない」と、不満を漏らしていた。
*検証4:関口宏のサンデーモーニングで、スポーツご意見番として登場している張本勲氏。たとえ、イチロー選手がメジャーで高打率をマークしても、連続試合安打の記録更新中でも、決して「あっぱれ!」とは言わない。それどころか、何故か評価はいつも「喝!」。その理由は?「当たりそこないが多いから」
これらはいずれも、イチロー選手を「ある印象」によって評価したものです。それは恐らく日本人誰もが感じていた「疑問」に近いものかも知れません。特に張本氏の「当たりそこないが多いから」という言葉が象徴的だと想います。つまり、これまで常識的に考えられて来た「ヒット」と言うもののイメージから来る「違和感」なのです。
常にバットの真芯でボールをとらえ、強烈なライナーで、外野、あるいはフェンス越えの長打を放つ。そう言う打撃こそ「強打者の明かし」であって、イチロー選手のように、当たりそこねを足の速さでヒットにするような打ち方は、完璧な打撃とは言えない・・
草野球でも、ボテボテの内野安打とか、野手の間に落ちるポテンヒットなどには、「ラッキーヒットだ、ピッチャー勝ってるよ!」などと投手を励ましたりします。同様に、逆方向の当たりに対しては、「振り遅れだ!バッターおされてる!」として、バッターの敗北を強調したりするのです。
ですから、イチロー選手がマリナーズでプレーを始めた当初、多くの日本人ファンは「息苦しいような気持ち」で彼の打撃を見ていたに違いありません。「もっと強烈な、快心の当たりを打って欲しい」と。つまりイチロー選手の打球は、確かに記録上はヒットであるけれど、まだまだ振り遅れの「敗北の打球」として、日本人の目には映っていたのです。
それに比べて、同じ頃メジャー入りしていたシンジョー選手は、伸び伸びしていて気持ちよく、何より打球がスカッと飛ぶのが人々の心をとらえました。「シンジョーの方が、アメリカ野球に向いているんじゃないのか?」そんな声を聞くことも多かったのです。
ところが、ヒットの3分の1を「当たりそこね」で稼いでいたイチロー選手に、なぜかメジャー投手の激しい内角攻めが始まるのです。時にそれは彼の背中を直激し、幾度かバッターボックスの中でうずくまることもありました。それは正に、新顔の強打者に対する洗礼そのものでした。
そんな攻撃をかいくぐって、やがてイチロー選手の驚異的な連続試合安打が始まると、興奮した観客たちは、立ち上がってイチローコールを始めるようになりました。イチロー選手は、その声援に後押しされるように首位打者に躍り出て、そして何と、オールスターゲームでのファン投票1位と言う快挙まで成し遂げてしまうのです。
その様子を逐一テレビで見ていた日本人は、大きな喜びと同時に、ちょっと驚きも感じていました。「イチローってそんなに凄かったの?」と。そして戸惑いながらも、少しずつ、「・・なるほど、こう言う打撃でもいいのかも知れない」と想うようになって行ったのです。
そもそも野球では、打っただけではヒットになりません。フェンス直撃弾を放っても、走らずボーッとしていたら、返球されてアウトになってしまいます。当たり前の話しですが、打ったあと「野手の送球よりも速くベースにたどり着く」ことによって、ヒットが生まれるのです。
つまり「ヒット」とは、「打つこと」と「走ること」の二つをやり遂げて、初めて成立するものだと言うことです。ですから、どんなボテボテの内野ゴロでも、ボールより速く走れば「完璧なヒット」。逆に、どんなに強烈なライナーを飛ばしても、野手に捕られたら「単なる凡打」、そのことに尽きるのです。
イチロー選手は日本にいるころから、その考えに徹していました。「あとコンマ何秒か速く走れたら、ヒットが数十本増えるはずだ」として、陸上のコーチを訪ね、走るフォームの改造に取り組んだのは有名な話しです。
さらにスパイクについても、メーカーに徹底的な軽量化を要求したと言います。(近年、パンツをロングからストッキングが見えるスタイルにしたのも、風の抵抗を少なくするためだと言います)
つまり彼にとって野球とは、「投げる・打つ・捕る・走る」と言う、あらゆる身体能力を駆使して挑む総合的なスポーツであり、中でも「足の速さ」は、非常に重要な位置を占めていると言うことなのです。いや、それどころか、ひょっとするとイチロー選手は、ある極論に達しているのかも知れません。
「打撃とは、走るための時間かせぎに過ぎない」
どうも彼のプレーを見ていると、そこまで考えているような気がしてなりません。どんな打球を飛ばすかと言うことについては、あまり興味が無いように見受けられるのです。
そうして夏を迎え、実力の無い者には投票しないはずのアメリカの野球ファンが、オールスターNO.1に選んだのは、ボテボテの内野安打を量産する「イチロー選手」でした。その快挙を成し遂げた日、彼は、いみじくもこんな言い方で自分の気持ちを表現しています。
「アメリカの野球ファンは、とても野球が好きで、野球と言うものをよく知っている。そう言う人々に選ばれたことを誇りに想います」
*検証1その後:「イチローのどこがそんなに凄いんですか?」と言っていたN君。今では、草野球での自分の外野からの送球を「レーザービーム!」と称して投げるようになった。
*検証2その後:ホームラン打者狩りしていたはずの巨人のWオーナーは、「オリックスがぼんやりしてるからイチローをアメリカにとられちまうんだ」と怒鳴り散らしたとか。
*検証3その後:ピネラ監督は、イチロー選手が21打席ノーヒットの後、レフト前へどん詰まりのポテンヒットを打ったのを見て、「やっとイチローらしい当たりが出たな。もう大丈夫だろう」とコメント。
*検証4その後:サンデーモーニングのスポーツご意見番、張本氏は、「私は、走り打ちは好きではないんですが、こうなったら首位打者を狙ってもらいたいですね」と、トーンダウン・・
アメリカでは「ベーブ・ルース」の登場以来、ホームランバッター、パワーヒッターが野球の主役となりました。関係者はこぞって野球用具の改良に力を注ぎ、飛ぶボール、反発力の強いバットの開発で選手にホームランを量産させました。そう言う野球をすることが、観客を集めることにつながるとヤッキになって来たのです。
イチロー選手の打撃スタイルは、その流れに逆行するかのように想えました。が、人々の目には、むしろ新鮮で衝撃的に映ったのかも知れません。
そのイチロー選手、今一番の話題と言えば、新人の最多安打記録223本を抜くかどうかと言うところですが、ここへ来て、実は元ホワイトソックスの「ジョー・ジャクソン(シューレス・ジョー)」がインディアンス時代の1911年にマークした233本が真の記録だ、と言う説がにわかに浮上して来たらしいです。
彼は八百長容疑で球界を追放されているので、公式の記録ではないはずなんですが、シューレス・ジョーまで引き合いに出してしまうところが、またイチロー選手の凄さなんでしょうか。
同時に、ふと想いました。ベーブ・ルース以前のアメリカには、俊足・好打・強肩を武器とする選手がたくさんいたと言います。その中でもシューレス・ジョーは飛び抜けていて、その守備の素晴らしさは、「彼のグラブの中で三塁打が死ぬ」と言い伝えられたほどでした。
同じ左バッターで同じ外野手、俊足で強肩、あきれるほどのヒット数・・
伝説の名選手「シューレス・ジョー」が、今の時代に活躍していたなら、もしかするとそれは「イチロー」のような選手だったのではないか、そんな空想もしてしまうのです。
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