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モノノケにさらわれる子供の話し

★こう見えて?私は、すごく子ども好きでして、しかも感情移入が激しい方なので、子供が行方不明になったとか、虐待を受けたとか、そんなニュースを聞くと、他人事なのにいても立ってもいられなくなるタチなのです。

ついこないだも、大分県で2歳の女の子が、ホンのわずかな間に行方不明になったと言う報道がありましたが、「うそだろ・・」と落ち込んでいたら、一夜明けて、無事見つかったというニュースがあり、もうホッとして、しみじみ「よかったなあ・・」などと、独り言などつぶやいていたのです。

ただ、見つかったのはずいぶん山の中みたいで、「とても2歳の女児が登ったとは思えない。なんでこんな場所まで来てしまったのか不思議です」と、取材に行った人も言っていました。そのレポートを聞きながら、テレビに映し出された風景を見ているうち、いつもの妄想が始まってしまったんですよね。

「あんな所まで行くなんて・・。ひょっとしたら山のモノノケの仕業かなあ・・?」なんてね。

しかしながらこれには、ただの妄想好きのオッサンのたわ言、とばかりは言えない理由があるのです。と言うのも、ウチの母が幼いころ、たびたび得体の知れないモノが現れては連れて行かれそうになった、みたいな体験を持っていて、ついついその話しを思い出してしまうのです。たとえば、人の姿をしているのに獣のように動くモノだとか、奇妙な身のこなしで行進する提灯行列だとか、そう言った具合です。

母は昭和初期に生まれ、秋田の山深い農村で育ったのですが、正直だけで生きて来たような時代の人ですから、そんな「日本昔話」みたいな話しでもつい信じてみたくなるのです。父と結婚して東京に出て来てからも、「だれそれが怪我をする夢を見た」と言っては電話をし、実際にその通りになっていたとか、近所の奥さんと買い物に行って一緒にUFOを目撃するなど、まあ「プチ超常現象」を体験するタチの人間であることには間違いないのですが・・

ただ、母は人並み以上に臆病な性格で、モノノケを見た時でも、いつも好奇心より臆病が勝ってしまい、絶対に後を追いかけて行くことは無かったと言うのです。「あの時もし付いて行ってたら、どうなっていたか分からない」と口癖のように語り、実際にひどい目に有った子供もいたと言う話しも聞かされました。

たとえば沼や肥溜めに引きずり込まれたり、それこそ行方不明になって村中で大騒ぎになったり。で、ようやく見つかって話しを聞いてみると、意味不明のことばかりを話すので、「キツネかタヌキに化かされたんだべ」ってことで一件落着、てなことがちょくちょく起こっていたと言います。

私は物心ついた頃からそんな話しを聞かされていたので、「そう言うことも有るのだな」と、ごく普通に納得しておりました。なので、今回の大分の女児の場合にも、もしかすると親が目を離したほんのわずかな瞬間に「大人には見えない何か」が現れ、女の子を連れて行ってしまったのではないか?、なんて、自然にそんな風に思えて来るのですよ。

母はそんなでしたが、私の父はどうだったか?と言うと、これがまったく無いわけではないのです。父の生家は母の実家よりもまだ山奥で、小学生だった私は、夏休みにボンネットバスに乗ってデコボコ道の峠を一つ越え二つ越え、ようやくたどり着いた記憶があります(夜は満天のすごい星空でした)。

そんな山の中で、少年だった父は深夜に大きな「鬼火」を見たそうです。父によれば「ドンブリくらいの大きさで、ゴーッゴーッと唸りを上げながら山の中を飛んで行った」らしいです。

似たようなモノが、今野圓輔氏(編)日本怪談集「幽霊篇」(現代教養文庫1969年)に記されています。それによれば、奈良県天理市付近にも、大きくて音を立てながら飛ぶ火の玉の伝説が有るというのです。そちらでは「ゴーッゴーッ」ではなく「ジャンジャン」と聞こえることから「ジャンジャン火」とか、「ホーイホーイ」と呼ぶと現れるとの言い伝えから「ホイホイ火」などと呼ばれていたらしいです。

もっとも現代的に解釈するなら、「球電」ではないか?と考えるのが常識的かも知れません。ただ、球電は落雷の後に起こる「飛び火」のような現象だとは言われていますが、じつは、正体は完全には解明されていないそうです。ましてや父が「鬼火」を見たとき落雷が有ったのかどうか分からないし、また、球電が「唸るような音」を発するモノなのかも分からない。とにかく私には判別の手立てが無いのです。

あと、その夏休みに訪れたとき、祖母から、父の若い頃の奇妙な話しを聞かされたことがあります。当時の山村では飲酒に対しての規範がゆるく、男はだいたい十代後半になるとかなりの量の酒を飲んでいたと言います。父もそれに違わず、18歳前後の頃にはもう仲間と酒を飲んでは夜更かしをしていたらしいです。

そんなある夜(夏ごろだったんでしょうか?)、友人と飲みに行ったきり深夜になっても中々帰って来ないので、さすがの母親(祖母)も心配になり、玄関を出たり入ったりして様子を伺っていたそうです。するとやがて、ぐでんぐでんになった父が帰って来たのですが、何故か手には古びた籠を抱え、その中に木の葉がたくさん詰まっていたと言うのです。

あきれた祖母が、「こんな遅くまで何処さ行ってた?!」と尋ねると、父は酔っ払った口調で、「狸のとこさ行ってた。狸にお呼ばれしてた」と答えたのだそうです。(木の葉の籠は、狸の手土産ってことだったんでしょうか?)

街灯も懐中電灯も無い、星空以外は真っ暗になる山村の夜の出来事です(外出用の明かりは恐らく提灯)。しかも遠い遠い昔のことなので真相はまったく不明です。が、飲み友達と別れたあと、深夜まで帰って来なかった父が、いったい何処をさ迷って何を見て来たのか、いろいろ空想を膨らませると、面白いと言うかちょっと恐ろしいと言うか、そんな不思議な気分になるのです。

父や母のように、もしかすると自分も記憶がハッキリしないだけで、子供のころ何か不可思議なモノを見ていたのかも知れません。特に夏休みの秋田では何かしら有ったんじゃないか?。そう言えば、時折り従姉妹ではない知らない子供と遊んだ記憶もあるが、あれはホントに人間の子だったんだろうか?、・・なんて、そんな不気味な空想もしてしまうのです。

かつて日本の田舎はそんな伝説であふれていました。もちろん、子供がかき消すように居なくなる事件も確かに有ったんです。今では事故か事件かと考えるのが普通ですが、かつては「神隠し」などとも呼ばれました。まあ神様が子供をさらうはずが無いので、有るとすれば、やっぱり山に住む「物の怪(モノノケ)」の仕業ということになるんですかね。

そんな「物の怪」「あやかし」から村人や子供を守るために、古くから「道祖神」や「地蔵様」が祀られたものでした。もちろんただ石像を立てればいいと言うものじゃなく、季節ごとに事あるごとに祈り祀らねばなりません。

私は、今回の大分の件では、この土地の住民が、もしかしたら何人かの年寄りが、若い者から煙たがられながらも、大切に祀って来たんじゃないかと思うんです。その功徳のお陰で、モノノケに拐われそうになったあの女児を、道祖神か地蔵様が、結界の効いている場所まで誘い出し助けてくれたんじゃないか、ついついそんな風に思ってしまうんです。

もしかして、女児が見つかったという山の麓の道端に、古びた小さな石像が有りはしないですか。もしそうなら、ぜひ感謝の御参りをして欲しいと思うのです。今度のことは本当に奇跡的と言っていいことなんですから。

・・なんて話しをしていると、また変人扱いされそうな気がします。何しろ「除夜の鐘がうるさい。鳴らすな」と言うところまで来てしまった世の中なので。私なんぞ、間違いなく・・

まあ、分からない人には、まず分からないでしょうけど・・

でもね、あるんですよねえ・・








  

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