★先日、小田和正氏と矢井田瞳さんの合作「恋バス」のことを書きましたが、じつはその後1ヶ月ほど、このブログのアクセス数がスゴかったのです。いつもの5、6倍はあったでしょうか。みんな検索の末にたどり着いたようですが、やはりあの歌は、かなりのインパクトがあったんですね。
僕が思うには、その内あの番組「クリスマスの約束」は、ミュージシャンにとって、特に若手にとって、紅白よりも出たい番組のひとつになるんじゃないか、そんな気がするのです。
あれに出たミュージシャンは、翌年明らかにCM起用率が上がってるんですよね。もちろんそれ以前に、今の若いミュージシャンにとっては、小田氏は「雲の上の人・憧れの人」的存在であって、共演できるだけでも相当嬉しいみたいなのです。
でもですね、おそらく彼ら若手は知らないのです。今では大御所となったその小田氏にも、誤解され差別された、不遇の時代があったことを・・
・・もう、かれこれ20年くらい前のことになるんでしょうか。ある打ち合わせで小さなデザイン事務所を訪れまして、そこで数人のスタッフとミーティングをしておりました。確か女性は1人で、あと全員が男だったと記憶しています。
その事務所は、仕事場と打ち合わせコーナーが分かれておらず、スタッフが作業をしながら聴くために、ラジオなのか有線なのか、絶えず静かにBGMが流れておりました。
打ち合わせを初めて30分ぐらい経った頃でしょうか。BGMの何曲目かに「オフコース」の曲が流れたのです。そしてその時、打ち合わせをしていた内の1人が、曲に合わせて小さくハミングをしているのに気づいたのです。
全員の目が、いっせいに彼に向かって注がれました。しばらくして気づいたその男は、バツが悪そうに「失礼・・、じつはファン、なもんで・・」と言い、苦笑いをしました。その横では、女性スタッフが肩を揺らして笑いをこらえていたのです。
じつは、当時オフコースのファンであることを知られるのはちょっと恥ずかしいことだったのです。80年代バブル時代は「リゾートミュージック全盛」でした。「明るさ・軽さ」こそが命で、オフコースは「暗く軟弱な音楽」の象徴的存在として軽んじられ、したがって「オフコースファン」は次第に地下に潜り、「隠れファン?」として生活しなければならなかったのです。
じつは何を隠そう、私も熱心なオフコースファンでして、それはもう中学以来のことですから、かれこれ30年来のファンであると言うことになりますか・・。しかし当時は特に「暗い」とか「軟弱」と言う印象はありませんでした。
むしろ、反戦や反権力、人生や平和を歌に託す、「メッセージフォーク全盛時代」だったので、リゾート音楽のような明るく軽い曲を作ると、逆に「あいつは軟弱だ!軽薄だ!」などと罵られる時代だったのですね。
つまり、オフコースと言うのは、そう言うメッセージ性の強いフォーク時代の生き残りと言えるわけなんです。ですから当然のことながら、メロディやコーラスの美しさとは裏腹に、歌詞の内容にはかなり重たいものがありました。
そう、「暗い」と言うよりは「重たい」のです。彼らはじつはすごく硬派で、歌詞の内容には、何処か心の底をえぐるような残酷ささえあったのです。それがネックになって、なかなかヒット曲に恵まれないグループだったのです。
オフコース最大のヒット曲と言えば「さよなら」ですが、メンバーが言うには、あの曲は「本当の僕らの姿ではない」曲だったそうでして、どうしてもヒット曲が欲しくて、意図的に、万人向けに作ったものらしいのです。
ところが、皮肉にもこの曲のヒットにより、メンバーの気持ちとは関係なく、「オフコースは軟弱」と言うイメージが定着してしまうのです。
そう言えば、こんな面白いエピソードがあります。昔ラッツ&スター(シャネルズ)のリードボーカルで、現在ソロで活躍している鈴木雅之氏ですが、無名時代につき合っていたカノジョがオフコースファンだったそうなのです。
最初彼もオフコースを「軟弱な歌」だと想っていて、「なんだ、こんなの聴いてんのかよ」とバカにしたのですが、つき合わされて何曲か聴いている内に、何と、不覚にも涙があふれて来てしまったと言うのです。
けっきょくその時の感動がきっかけとなり、ソロになってから間も無く、小田和正氏に曲を依頼することになったそうですが・・
それから、こんなことも有りました。私がオフコースファンだと言ったら、ある人から、「それじゃあ、さだまさしや井上陽水も好きなんじゃない?」と言われたのです。私にしてみれば、この連想は不思議でした。失礼ながら二人とも、私の中では「どちらかと言えばキライなミュージシャン・ベスト10」にランクされていたからです。
「どうして?」と言う疑問には、自分自身でもうまくお答えすることが出来ません。とても感覚的なものだからです。なので、私の主な音楽経歴でお答えすることにします。・・下記に並べるミュージシャン(日本に限定)はすべて同じ感覚で好きになったものだと想ってください。
村田英雄/三橋美智也/黛ジュン/ピンキーとキラーズ/ザ・タイガース/ザ・キングトーンズ/吉田たくろう/加川良/ジローズ/古井戸/ガロ/オフコース/荒井(松任谷)由実/ハイファイセット/麗美/大滝栄一(はっぴいえんど)/大貫妙子/山下達郎(シュガーベイブ)/スターダストレビュー/奥居香/ミーシャ/矢井田瞳/平原綾香/森山直太郎・・(つづく)
これらぜんぶ、私の中では、音楽的なある種の共通点でつながっているはずです。具体的な説明は難しいですが、ただし、こうして並べてみると、必ずしも「暗い・軟弱」とイメージでつながっているわけではない、と言うことはお分かりいただけるかと想います。
・・と言うより、演歌から始まっている音楽経歴が時代を感じさせますが。
しかしあのリゾート音楽全盛の80年代はどうにもなりませんでした。いくら説明しても、「オフコース=暗い・軟弱」と言うイメージは拭いきれず、果たしてオフコースファンは、地下深く潜って「隠れファン」として生き延びて行くしか無かったのです。
・・さて、その打ち合わせの席で、スタッフの1人が決死の覚悟で「オフコースファン」を告白したその隣では、女性スタッフがバカにしたように笑い続けていました。
すると、それを見ていたもうひとりの男性スタッフが、少しムッとしたような口調でこう言いました。「いや、オレもオフコースのファンですよ」その姿に私も勇気を得て、毅然として言い放ったのです。「オレもです!」
そして次々に男性スタッフが、いずれも「オフコースファン」であることを白状したのでした。
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